バンドリ!』は、ゲーム、ライブ、漫画、アニメーションと多岐にわたる媒体で展開される人気コンテンツである。サンジゲンはその中で、アニメーション制作を担い、ミュージックビデオ、TVアニメシリーズ、劇場アニメーション、劇場でライブに参加するフィルムライブなど、多くの映像作品を担当してきた。現在、アニメーション作品をフル3DCGに近いかたちで制作するCGプロダクションは国内にも複数存在するが、作画アニメとちがいそのワークフローは会社ごとにかなり異なっているのが実状だ。とりわけ、登場キャラクターが多く、作品数も多い『バンドリ!』アニメシリーズのワークフローは、サンジゲンが数々の作品で培ってきた経験と試行錯誤を経て進化をしている。本項では、その最新のワークフローを紹介していく。

※本記事はCGWORLD282号(2022年2月号)の記事を一部再編集したものです

記事の目次

    <1>スタッフ編成

    まずは、現在のサンジゲンのスタッフ編成を紹介する。上図の通り、全体の約40%を占めるのがアニメーター(監督・演出を含む)、次いでモデラーが約26%である(社員数は2021年12月時点で320名)。そして、下表からもわかるように、全スタッフの4割を占めるサンジゲンのCGアニメーターチームは、監督、スーパーバイザー、副監督を務める社内スタッフが6名。それに加えて演出を兼ねるCGディレクターを含んだプライマリチームが9組57名、セカンダリチームは1チーム61名の体制である。プライマリはプロジェクトに合わせて、複数組が共同で作業にあたっている。

    アニメーションチーム(工程)を2つに区分けしている理由とそれによるメリットを説明する。まず、プライマリチームはレイアウト(LO)からアニメーションFIXまでを担当する経験豊富なスタッフで構成されている。一方のセカンダリチームは、揺れもの、めり込み(干渉)の解消、色替えなどを担当する主に新人が最初に所属するチームである。1カットのアニメーション作業を最初から最後までひとりでつくりきる方式が日本のアニメCG制作現場ではスタンダードであるが、サンジゲンはCGアニメーターを大きく2つのチームに分けている。その理由は、当社のようにスタジオの規模が大きく、複数のプロジェクトが並列で走る場合、経験豊富なアニメーターが「色を変更する作業待ち」といった難易度の低い作業のために、他案件のアニメーション作業に着手できなくなるなど、作品単位でみると、質の高いアニメーションを付けられる機会損失が起きていたからだ。

    そこで、経験者と新人でチーム分けを行い、1カットを引き継いでいくことで、経験者が第一印象を左右するプライマリを多く担当し、新人は経験者が作成した3ds Maxシーンを引き継いで、アニメーションの付け方自体も、継承していく方法を採用するに至っている。

    <2>アニメーションと編集をリアルタイムで分業

    日々、大量に更新されていくアニメーションのテイクを、編集スタッフがリアルタイムに差し替えていくことは、難しい。だが、サンジゲンではFoundryのHieroを導入することで、それを可能にしている。編集部 廣瀬清志(エディッツ)の提案と開発部によってサンジゲン独自の自動更新機能「Sanzigen カットマネージャー」が付与されたHieroは、Adobe Premiere Proによって作られたタイムライン上に、命名規則に従ったテイクを自動で更新していく。最新テイクの確認や前テイクとの比較などを、編集スタッフの立ち会いなく簡単に確認できる。

    編集フローを図示したもの。独自にカスタイマイズしたHieroを導入することで、アニメーションのテイクと編集がリアルタイムで更新されていく体制を実現した

    演出を兼ねる若いCGディレクターが、自席のPCでHiero Playerを起ち上げれば、タイムライン上のつながりをいつでもCGチェックできることは、「経験による勘」に頼らずとも、自信をもって判断することを後押ししている。また、編集スタッフも差し替えという作業工程をオミットすることで、本来の業務であるカッティングなどに注力できるようになった。

    サンジゲンの編集の特徴は、Vコン状態の整音CT(カッティング)と画が揃ったタイミングでの本番CTの2回行われることだ。1回目のCTは、アフレコのためのフォーマットに合わせて整え、アフレコ音をアニメーターに戻し、アニメーション付けの手助けをする役割を担っている。そして2回目のCTは、作品をながれる感情と時間の感覚を細かくコントロールできる監督の強い演出手段として行われている。

    HieroのUI。図中・左上が自社開発した「Sanzigen カットマネージャー」であり、独自のリスト方式でテイクのバージョン管理を行なっている

    <3>自社開発したプロジェクト管理ツール

    『バンドリ!』をはじめとするサンジゲンが制作する全ての作品は、「サンジゲンDBV2」という自社開発したプロジェクト管理ツールを用いて制作が行われている。「サンジゲンDB」は、社内ワークフローに特化したプロジェクト管理ツールとして開発されたものであり、V1の時点で発注、納品、チェックバック、OKになったら次工程へとチケットを渡していく仕様であったが、外部連携や機能の拡張性をもたせるために、システム部によってフルスクラッチで開発したものがV2だ。

    フルスクラッチをするにあたり、最新トレンドに従いSPAで作成している。バックグラウンド処理はSQLサーバ、フロントはVue.js、APIはdotNetCoreである。V2で追加された機能として、DBに集積された作業進捗の分析がある。これにより、経営視点からの原価管理・発注工数と実績の予実管理等が可能になった。また、外部連携機能の1例として「基礎工数表」が挙げられる。作業IN前に作業完了工数を予想する「見積り工数」は、試行当初は外れることも多かった予想値だが、絵コンテから要素ごとに分析を行い、かつプロジェクトを重ねるごとに同じカテゴリに分けられたカットの実績値で平均化され、より一般的なガイドラインとなる数値が見つかってきた。さらにスタッフの進捗状況がリアルタイムに反映される手持ち状況表など、組織の「今」の課題をいち早くクローズアップできる。サンジゲンDBは、課題分析に強みをもった管理ツールとして今なお進化を続けている。

    以下の画像は現在、運用されている「サンジゲンDBV2」のUIより

    発注とそのチェックを行うためのUI
    基礎工数表のUI。工数の根拠となる分析項目は、例えばアングルであれば「アップ・バストショット・腰まで・全身」の4分類で数値が設定されている
    組・チームごと、個人ごとの作業ステータスを一覧できる機能
    アセットの検索機能

    <4>多拠点化に伴い、IDCを導入

    サーバは創業以来、本社スタジオで管理していた。だが昨年、その所在地をIDC(インターネットデータセンター)に移転させた。理由は、本社以外の勤務地のクリエイターが圧倒的に増え、ネットワークの負荷や堅牢さが求められることになったからだ。また現在の本社ビルは、一般の商業ビルであるため、ビル全体での空調や電源設備の整備が年中行事として組み込まれている。その都度、シャットダウンと再起動を準備し実行するが、当然機材トラブルもその際に起きることが多かった。IDCへの移転は、施設インフラを活用できるメリットと、現状のデメリットの軽減という、両方の点から導入の後押しとなった。

    今後の展望

    元来、日本のアニメCGに寄り添うかたちで成長を続けてきたサンジゲンだが、近年は『バンドリ!』をはじめとする元請けの3Dアニメ制作が中核事業へとシフトしつつある。また、積極的なVコンでのアフレコや、社内CGディレクターから演出、監督の登用など、作画アニメとは離れて独自のフローに変化してきた部分も多くある。

    それと同時に、作画アニメの工程が原画と動画に分かれているように、アニメーション作業をプライマリ、セカンダリといった具合に作業スタッフを分業するなど、改めて作画アニメに学び直す部分もある。アニメーションのルールをつくってきた先人たちがいかに工夫を重ね、苦労をしてきたのかを追体験する日々だ。

    そして今後は、サンジゲンが開発してきた映像制作のノウハウや工程管理のソフトウエアなどを、作画主体のスタジオとも協力しながら開発することで日本のアニメを強く成長させていくことを視野に入れている。

    TEXT _サンジゲン
    EDIT _藤井紀明 / Noriaki Fujii(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
    ©BanG Dream! Project ©BanG Dream! FILM LIVE Project